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TOP > アーティストチョイス > Vol.20 鴻上尚史


 
 すべての物事は、巡りめぐる。もうおしまいだと思っていても、案外そうでもなかったりする。二度と逢わないと固く誓っても、いずれ笑い合えてしまったりもする。だから人生ってものは、これでなかなか、やめられない。
 この人も、そんな季節を重ねている。大学時代、その才気に火がついて、8〜90年代の「小劇場ブーム」を牽引。大高洋夫や筧利夫ら個性豊かな俳優たちを輩出し、異例のロンドン公演まで成功させつつ、2001年、その活動の「10年間封印」を宣言した劇団「第三舞台」。主宰である鴻上尚史は今年、ふたつの再会を仕掛けようとしている。まずは、この夏。1988年に初演された、同劇団の代表作『天使は瞳を閉じて』を、現在彼が率いている若手中心の「虚構の劇団」公演として舞台にのせる。高校演劇での上演希望が、今なお押し寄せる人気作だ。
「ひとつひとつのキャラクターが際立っている、というのが(人気の)理由のひとつかもしれないですね。かつて天使だった人間とか、やりたいことが見つからなくて七転八倒している女の子とか。そして、その人たちの希望と絶望を、ただ見守ることしかできない天使がいる。そんな構図が、共感をいただけたのかも」
 描かれるのは、世界の終わりだ。放射能汚染で滅んだと思われた人類が、しかしわずかに生き延びている街を、世界の監視員たる天使が見つける。相棒の天使と共に駆けつけると、彼らはちょうど結婚パーティーの最中で、だから全員が満面の笑顔であり、そのあまりにも幸せな光景に思わず、天使のひとりは人間へと“転職”を決める。残された天使はその日から、彼女と街の人々の日々を、静かに観察することに。
「具体的にお金をもらうわけでも、ほめてもらえるわけでもない。でも、誰かに見守られている、と思うだけでひとつ、生きる勇気を得られるような局面が、人生にはあると思うんですよ」
 たとえば、何らかの悲しみに見舞われたとき。孤独を痛感してしまったとき。亡きおじいちゃんやおばあちゃんの顔が、ふと頭をよぎったりする瞬間が、特に日本人には多くあるだろう。
「僕たちは“絶対的に強力な他者”としての神や救世主を想定せずに生きている。かといって、代わりに家族や会社や手近な恋愛にすがるのも、どうも違うと思うんですね。だって、絶対的に強力な存在なんてものはそもそも、どこにもないんだから。何かを頼りにするのではなく、脆弱で無力な何者かを自分なりに想定して、そのまなざしを支えに生きていくのだという、ある種の踏ん切りとあきらめと決意が、この時代には必要なんだと思うんです」


 大人になる、というのはつまりそういうことのように思う。親とか、先生とか、揺らがぬ指針として心をあずけてきたものたちが、わりとあっけなく、そうでなくなる。そして不意に気づくのだ。そうか、立派に見えた親も先生も、同じように揺らいでいたのだ、と。
「初演のときに“マスター”(編注:劇中、街の人々が集うスナックの経営者)を演じた大高洋夫に、今回も同じ役で参加してもらうんですが、初演当時の大高は29歳だったんですね。そして今は「虚構〜」のメンバーが、その年齢に差しかかりつつある。僕らが20代で作った物語を、今20代を生きる彼らは、果たしてきっちり引き受けられるのか。それが楽しみで」
 劇団にしろ、バンドにしろ、アイドル・グループにしろ。ひとつの集団を長きにわたって見守る喜びは、おそらくそこにあるのだろう。だんだんと個別認識ができるようになり、ああ自分はこの人が好きだ、と思うようになり、やがて彼もしくは彼女の動向ひとつひとつに、一喜一憂するようになる。
「そしてその役者をある日テレビで見かけたりすると、うわあっ!とテンションがあがりますよね(笑)。観る側の中に、役者の歴史が積み重なっていくというか。それと同時に、その役者は、その歴史を支えられるだけの技量を持ち続けなきゃいけないわけです。その点、「虚構〜」のメンバーは大変だと思う。一時期の巨人軍じゃないけど“勝って当たり前”みたいなところで戦ってきているわけだから」
 「虚構の劇団」が始動したのは3年前。鴻上自身による綿密なオーディションを勝ち抜いた、即戦力の俳優集団として、その一歩目を踏み出した。
「第三舞台の頃は僕だって、初めてのことだらけだったから、その不器用な試行錯誤のすべてをお客さんに暖かく見守っていただいてたわけですけど。でも「虚構〜」のメンバーは「さんざん試行錯誤をし終えた鴻上が、ここへきて一体何をしようとしているのか?」という、どこかシニカルな視線の中を突き進まなきゃいけない。「ほらね? 順調に育ってるでしょう?」と言い切れる結果を残し続けるのは、彼らも、そして僕だって、相当腹を決めてかからなきゃイカンなと思うんですよ」

取材:小川志津子 撮影:平田光二

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Profile

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ
1981年に劇団「第三舞台」を結成。以降、多くの作・演出を手掛け、1987年に『朝日のような夕日をつれて'87』で紀伊國屋演劇賞団体賞を、1995年には『スナフキンの手紙』で岸田國士戯曲賞を受賞。2001年に「第三舞台」の10年間封印を宣言してからは「KOKAMI@network」「虚構の劇団」を拠点に活動。2010年に戯曲集『グローブ・ジャングル』で読売文学賞受賞。8月に『天使は瞳を閉じて』『ハルシオン・デイズ』ロンドン公演の他、11月には「第三舞台」の復活公演が控えている。




Information



虚構の劇団
『天使は瞳を閉じて』

■作・演出:鴻上尚史
■出演:大久保綾乃/大杉さほり/小沢道成/小野川晶/杉浦一輝/高橋奈津季/三上陽永/山風Y介/渡辺芳博 ・ 大高洋夫
■日程:8/2(火)〜21(日)
■劇場:シアターグリーン BIG TREE THEATER
■チケット料金:4,500円 他
■当日券:あり
■お問い合わせ先:
サンライズプロモーション東京
0570-00-3337(10〜19時)
■公式サイト:
http://www.thirdstage.com/